小笠原満男と本田圭佑の「とんでもない発想」
――劣等感を持った僕が生き残るために教えられたこと
「現役目線」――サッカー選手、岩政大樹が書き下ろす、サッカーの常識への挑戦
当たり前を壊すという作業
当たり前のことを当たり前にできるようになることに取り組む一方で、僕は地道な道を選んできた分、自分の中の当たり前を疑うことはなかなかできませんでした。現実的でビビりな僕は、確証のあるものしかなかなか信じられず、とんでもない発想は性格的にも生み出せませんでした。
その点で、プロに入り僕が刺激を受けた人物がいます。小笠原満男選手と本田圭佑選手です。僕が所属していた時から現在まで、それぞれが鹿島アントラーズと日本代表の中心であり続けています。
彼らには常識に左右されない確固たる自分というものがありました。
彼らには星勘定というものは存在しません。内容的に、あるいは力的に厳しい試合であっても、それをそうとは受け取らない独特の感性がありました。僕の感覚からすれば、とんでもない発想を持った選手だったのです。
だから、苦しい時にチームはいつも彼らを頼りにしました。悪い流れを断ち切りたいときには、彼らを探しました。
彼らは決して饒舌ではありませんでしたが、背中でいつも語りかけていました。
「何が当たり前なの?」
小笠原選手に引っ張られて、鹿島の「常勝」を目指す精神は次世代に受け継がれようとしています。
本田選手に引っ張られて多くの日本人選手が、世界のトップを目指しています。
僕には彼らと比べて、世間や自分の中にある「当たり前」を疑う部分は決して多くありませんでした。
「そんな自分だったからこそ、ここまで来られた」という気持ちがある半面、「もし僕に彼らのような精神があったら、もっと遠くまでいけただろうか」という思いがあるのも事実です。
それを鹿島で3連覇を果たした頃から感じるようになった僕は、自分の当たり前で生きていけるところから飛び出し、自分の当たり前を壊すような、新たな経験をしなくてはいけないと考えるようになりました。